人工知能と有料老人ホーム紹介センター
ここ数年、AI(人工知能)分野の発展には目覚ましいものがありますね。近い将来、多くの仕事がAIによって奪われるとか、「○○年後には消える職業」なんて記事もよく見かけるようになりました。
私たち紹介センター業でもご相談者様への提案書類(比較表など)をAIに任せている同業者はひょっとしたらもう実際にいるかもしれませんね。
試しに作らせてみました
実際に存在する有料老人ホームの名前で、ホーム入居希望者に概要を説明する文章を250文字、500文字でそれぞれAIアプリに作成させてみました。
結果は…
そのホームの公式ページを含むインターネット上から拾い集めた施設概要的な情報を文章で繋げただけのような内容で、「これでは使えないな」と拍子抜け半分、安堵半分の結果となりました。
何がどう「使えなかった」のか
なぜ使えないと思ったかというと、そのホームの「マイナスになりうる情報」がAIの紹介文から抜けていたからなのです。
公式ページにしても、老人ホーム情報サイトにしてもホームにとってマイナスなことというのはあまり載っていません。
・15㎡と近隣の競合ホームと比べてやや狭い
・最寄駅からバス利用で約20分とアクセスにやや難あり
・月額費用が○○円とやや高額
…くらいのことは概要欄から拾ってきた情報でAIでも伝えられるのですが、この程度ならAIに聞くまでもなく、パンフレットを眺めていれば最初に目がいくところでしょう。
・建物が企業の社員寮だった物件を改修したリフォーム物件
・昭和62年築の建物は外観や内装にも年季が入っている
・要介護度別の入居者分布では要介護4,5の重介護に偏っている
・全入居者48名中、男性は2人だけ
・胃ろうの方の新規受け入れは現在停止中
・建物が8階建と高層、フロアあたりの職員配置に懸念
・月額利用料には居室の水光熱費が含まれず別途実費での請求
・居室トイレはカーテン仕切り
・共用の浴室は個浴もあるが例外的な運用で通常時は大浴場利用
・派遣職員の割合が高く、また正社員の勤続年数が短い
・短期間に施設長が何度も変わっている
・月額利用料の改訂頻度が高い
・自宅に来ている訪問診療医を継続することは不可
・駐車場ナシ、面会時には近隣の有料駐車場利用
・1階に入る自社デイサービスの利用は「暗黙の了解」
・トイレは温水洗浄便座ではない
・洗面は水のみでお湯は出ない
…今までの経験上、思いつくまま上げた「マイナスになり得る情報」の一例です。一つのホームについてのものではありませんが、このような情報はあまり「ネット上に落ちて」いません。落ちていないのですからいくら優秀な人工知能でも拾うことができないわけです。
面会は自転車で行くつもりだから駐車場はなくて良いよ、とか、建物が古くてもしっかりケアしてくれれば気にしないよ、とか、大浴場の方がゆっくり浸かれるからむしろいいよ、とかこれらの条件の中には相談者によっては気にならない項目もあるかもしれません。逆にトイレ仕切りがカーテンなのはちょっと…とか、いま在宅で診てくださっている訪問診療医の先生に引き続きお願いするのは大前提…ということもあります。
また先ほど挙げた例の裏返しで「勤続年数の長い正社員が多い」とか「低層の建物(居室階が少ない)に基準を上回る手厚い人員配置」や「1階に自社デイサービス事業所が入っているが、在宅時に利用していたデイサービスが送迎の範囲なら他社事業所を利用いただいてOK」(←これ、本来そうでないといけないのですが)とか「居室トイレは温水洗浄便座完備で洗面からはお湯も出ます」といったプラスになり得る情報も、私たちであれば見学前にお伝えすることができるわけです。
紹介センターの「存在意義」
いずれにしてもこれらのことを知ったうえで選ぶのか、知らされないまま選ぶのかは大きな違いがあります。
これをお伝えし検討をサポートするところにこそ、紹介センター相談員の存在意義もあると思うのです。
予算や立地などの希望条件をもとに候補ホームをピックアップする作業や、個々のホームの特徴を「250文字以内にまとめて」と入れればそれっぽいものが今の段階でもできると思いますが、それで良しとすることなく、「AIにはできない仕事」を意識してこれからも業務にあたっていきたいと思い、記事にしてみました。