老人ホームの見学はプロに同行してもらうべきか問題
先日、有料老人ホーム紹介業の同業者で隔月開催している勉強会に出席してきました。一歩離れれば「競合他社」なんですが、お互いで情報共有しながら知見を深められる機会でもあり、私自身も大切にしている会です。
当日は「業務の中でどう対応してよいものか困った」ご相談案件を3社の相談員さんから事例発表していただいたのですが、それぞれ自分でも困るよなあという案件ばかりで、発表いただいた実際の対応はとても参考になりました。
見学に行かずに入れるホーム?
ある発表の中で、時間的・距離的問題から「見学に行く時間がない」ご相談があり、ホーム側との交渉によりオンラインで入居相談を受け付けてもらい、無事ご入居された事例がありました。
発表いただいたのはいわゆる「web系」といわれる事業者さんで、電話やメール、LINEなどのツールを使った相談対応をされており、見学については日程の調整までは行うものの対面での相談受付や見学への同行はしておらず、通常はご家族様のみで見学に行っていただくシステムなんですが、今回の発表事例のように「見学自体を抜きで…と言われると事業者さんとの交渉や調整が難しかった」というお話でした。
コロナ禍をきっかけにオンラインでの面談や見学はホーム側でも対応が進みつつあり、このようなご相談にも乗っていただける先があったということですね。
発表の後で、通常のご相談のときに「電話での相談では話しづらいからウチまで来て対面で相談に乗ってくれないか」や「一人では不安だから見学についてきてくれないか」といった相談があったときはどうされているんですかと質問をしてみたところ、返ってきた回答に、驚いたというかショックを受けました。
見学は自分たちだけで、が主流になる日?
回答は「相談で家に来てくれ、とか見学についてきてくれ」という依頼自体がそもそもほとんどありませんというものでした。
数こそ非公表でしたが、私たち「対面型」の紹介センターとは文字通りケタが違う件数の相談・問い合わせを持つ(であろう)web系の事業者さんです。それだけの件数があって「ほとんどない」んですね。
高齢者ホームの種類や数が多くなったので、候補先ホームのピックアップや基本的な情報の仕入れだけは紹介センターwebサイトの検索機能を頼って選定し、必要であればメールやLINEで紹介センターに確認しておけば、現地での見学は自分たちだけで心配ない、大丈夫と考えておられる方が私たち「対面相談型紹介センター」事業者が考えているよりもずっと多く、むしろ全体から見れば「紹介センター事業者にわざわざ見学についてきてもらう必要はない」が主流になりつつあることを実感した次第です。
「見学同行」は必要ないサービス?
高齢者ホームを見学するときに、私たち「紹介センター相談員」が行っている同行サービスは果たして必要ないものでしょうか。
車や家を買うとき、大型の家具や家電品を買い替えるとき…いわゆる「大きな買い物」をするときにプロの専門家に同行してもらうというのは、サービスとしてはあるのかもしれませんが確かに一般的ではないですね。
ですが、これらの大きな買い物は自分が(たいていは以前からずっと)欲しかったもの、興味があったものです。欲しかったもの、興味のあるものについては当然、比較検討をするだけの知識や情報も蓄積があることでしょう。
一方のホーム選びはどうでしょうか。
「入ることを夢見てずっと検討を重ねてきた有料老人ホームにようやく入れる!」という方はマレだと思います。少し語弊のある言い方となりますが、「本当は老人ホームなどに入りたくはなく、住み慣れた自宅で最期まで暮らしたいという当然の気持ちで過ごしてきたが、身体状況やご家族間の事情などからホーム入居を検討せざるを得なくなった」という方が圧倒的に多いはずです。
在宅で生活ができているうちは老人ホームのことなど興味も関心もない方がほとんどですから、いざホーム入居…となっても比較検討のための知識や情報はどうしても「付け焼刃」(これも語弊がありますでしょうか)になりがちです。
ましてや相談者は実際に入居されるご自身ではなく、息子さんや娘さんといった「ひと世代下」で、当のご本人は病院入院中だったり外出困難だったりで見学の現場にも不在ということは珍しくありません。見学にご本人が同席できればまだ「今日のホームよりこないだ見た別のホームのほうが良い」といった意見も聞けますが、そうでない場合は息子さんや娘さんがご両親の代わりに決断しなければいけないわけです。
そしてもう一点大事なことは「嫌だったら別のホームに移ればいい」が実質的に難しいことです。前払金(入居金)を払って入った場合でも所定の手続きを経て未償却分は戻ってきますのでお金の問題は置いておいたとしても、相応の覚悟をもって自宅から引っ越してホームに入居した高齢者にとって、「別のもっといいホームに移ろう」は心身に大きな負担がかかります。
「リロケーション・ダメージ」と呼ばれるもので、これは馴染みのないところに転居することでストレスがかかり、心身に影響を及ぼすことをいいます。高齢者に限って現出するものではありませんが、環境への適応力が弱くなる高齢者は一般的に影響が強いともいわれます。それが短期間に二度続くわけですから負担はどうしても大きくなってしまいます。
ホーム探しに不可欠の強い味方(自称)
ネット社会が成熟し、たいていのことはキーボードを叩けば(スマホなら人差し指一本で)情報が得られる便利な時代になりましたが、私たちウィルホームコンサルプラザでは「見学にプロの同行はやはり不可欠」という立場で日々の相談を承っています。
今までもブログ記事で伝えてまいりましたが、適切な高齢者施設をピックアップするのにも、見学に行ったときに何を見てどこを確認したらよいかという知識を踏まえて適切なホーム見学をするのにも、複数の候補ホームから一か所のホームに絞り込む検討をするのにも、それぞれ知識と情報が必要です。
このサポートが適切にできるのは、私たち紹介センター相談員しかいません。お医者様をはじめとする医療従事者の方々、介護や福祉分野で立派な論文をたくさん書いている大学の先生、身近な例ではケアマネジャーさんなど、それぞれの業務分野では確かに「専門家」や「有識者」かもしれませんが、個々の相談内容に合わせて候補ホームを選定し、見学に同行して必要な確認を行い、契約に同席してその内容を相談者と一緒に確認し、入居後のフォローまで行う「専門家」ではありません。
確かに紹介センター相談員には資格が不要で、新規参入も多く玉石混交、外から見たときに玉なのか石なのかの区別もつきづらいのは事実です。
しかし、紹介センターへの相談は「嫌なら別の業者に」がいくらでもできます。首都圏だけでも私たちの同業者は100社を下らないでしょう。インターネットで「有料老人ホーム紹介」と検索すれば何ページにもわたって業者のホームページが検索結果に出てくるはずです。
どうか有料老人ホームを探される場合は、
・在宅継続という選択肢を残して相談できる
・情報提供だけでなく相談機能がある(対面/オンライン)
・適切な見学への同行ができる
・契約の席にも同席できる
・入居後のサポートも積極的に受けている
ところを念頭に、少し手間はかかるかもしれませんがホーム選びのパートナーを探してみてください。きっと「利用してよかった」と思っていただけると思います。
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